研究者の好奇心 ~国際リニアコライダー計画を知る!~

「国際リニアコライダー計画」をご存知でしょうか。「ヒッグス粒子とみられる新粒子」が発見された欧州合同原子核研究機関(CERN)の加速器「LHC」に続く次世代の大型加速器を建設する計画のことで、建設候補地は全世界に6か所あり、そのうち日本は東北の北上山地、九州の脊振山地の2か所が候補地に挙がっています。日本は今年の2013年夏頃に一本化し、2015年頃各国の建設を始め、2020年代半ば以降に建設が完了予定の国際プロジェクト。
「国際リニアコライダーとはなにか」「ヒックス粒子とはなにか」「宇宙とはなにか」と言葉は知っているが、何のためにあるのか、なかなか分かりません。今回は基礎科学に触れる「佐賀県基礎科学講演会」についてレポートします。
参加者の年齢層は幅広く上は80歳過ぎた方もいらっしゃいました。中には中学生と親御さんの姿もあり、国際リニアコライダーやヒッグス粒子への関心の高さが伺えます。開始五分前、照明が暗くなりオープニングムービーが始まります。科学の歴史とILCについて、これまでの写真とCGが融合がとても気持ちいい。なんだか最初に理科実験でアルコールランプに火をつける時と同じようなドキドキ感が包まれ、近未来を感じさせてくれる演出。
講師の野崎先生がご登壇しいよいよ講演会がスタート。国際リニアコライダーに関わったきっかけからお話が始まります。開始早々「いつもは宇宙でオブラートに包むところですが、今日はストレートに物理を伝えます」という一言。これはなんだか楽しみです。たしかに振り返ると素粒子物理学、量子力学は宇宙の起源と密接に関わるため、話し手としては「宇宙」で例えて話す方が表現の幅は広がるし、聞き手としてはイメージがしやすい。どんなシナリオになるのでしょうか。
野崎先生が研究を始めたきっかけは18年前神戸大学に務めている時、1995年1月17日に起きた阪神淡路大震災でした。この時、六甲山を眺めながら復興のために建設したいという想いで専門ではない地質調査など行い建設に向け研究を進めていたが、国際リニアコライダーの研究者に調査結果を見てもらったところ、建設には条件が整わず実現することはなかったそうです。その後は日本各地での地質調査にも積極的に同行し佐賀県の地質調査は2003年8月に実施。2007年に開催された佐賀県科学講演の発表スライド「物理学の歴史年表」では何か新しい発見があると予想。その予想通り、2012年には「ヒッグス粒子と見られる粒子」が見つかり、201X年に「国際リニアコライダー」の建設へと続きます。基礎科学はここ数年で飛躍的発展をしているように見えますが、その歴史は古くこの後ご紹介されます。
次に物理学について。その最初のスライドには枕草子の冒頭「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理(ことわり)をあらわす」と。ふと国語の授業かと思いきやここで「理(ことわり)」について説明が始まる。物のことを知るには「現象→原理→応用」が基本となりその繰り返しで物事をひとつひとつ解明していく。先生曰く「理」には「心の理」と「物の理」が存在。物理というものは「物の理」であり、これが学問になったものという。なるほど、この切り口は聞いたことがりません。
僕が一番心に残った「好奇心」について。スライドにはゴーギャンの作品「われわらはどこから来たのか、われわらは何者なのか、われわれはどこへ行くのか」という文字が。研究者ならずとも気になるところ。宇宙の起源が分かれば、これからの宇宙も分かるかもしれません。なんとなく素粒子物理学の原点と思える言葉です。
最後は素粒子物理学のお話。次のスライドに映るのは「スカイツリー」、「ピカチュウ」、「安田講堂」の3枚の写真。この共通点はレゴブロックで作られていました。なるほど、レゴブロックが元素とすると、様々な色のピースが集まり形成しています。これも分かりやすい。この後は元素の周期表、元素の起源、原子が作られ、分子が作られ、やがてタンパク質が作られ、生命が誕生して現在に至る話が続きます。粒子には反粒子が存在していて、その相互作用や間をつなぐ粒子があったり、そして、素粒子が質量を説明するために必要なヒッグス粒子と、過去の研究者が理論を証明しひとつひとつ解明されてきました。しかし、ダークマターやダークエネルギー、それを形成する素粒子、「ヒッグス粒子とみられる新粒子」には反粒子など、宇宙空間にはまだまだ説明できないことが存在するそうです。この後は国際リニアコライダー計画やコライダーの仕組みに関する話題もあり最後まで興味深い1時間半でした。
【まとめ】
今回の講演会では、電気の研究をしたガルファーニやボルタ、天文学者フェルメールなど多くの研究者を紹介されていました。どの研究者も共通点は「好奇心」。(もちろん研究費が無ければ達成するものも達成できませんが。)研究者と一般人は遠い存在に思いがちですが、「好奇心」という点でいえば、同じと思います。次々と不思議に思うことが好奇心を高めていたのかもしれません。僕らも好奇心を持って色んなことにチャレンジしていくことが大切と強く感じました。これからも好奇心や探究心で数々の難問を紐どき、驚きのニュースを続々と発見されることを期待します。
九州では佐賀と福岡の各地で講演会やサイエンスカフェを実施、九州大学には専門家を中心としたチームで臨む一方、東北では九州同様市民向けの講演会も多く、先日東北経済連合会が政権に復興予算の要望書の提出にあわせ、国際リニアコライダーの誘致活動のアピールを行い、両地区ともに誘致活動が活発になってきました。2013年夏に向け両地区に限らず、さらなる盛り上がりが楽しみです。誘致された後、どの程度の経済効果があるのか、都市にはどのような影響がもたらされるか、たくさん気になるところがあるかと思いますので、ぜひこのような会に参加頂きご質問いただく事をオススメします。
そして、誘致が決定した暁には、1985年つくば市にて開催された国際科学技術博覧会のような科学技術のエクスポが開催され世界全体で盛り上がってほしいと願います。(どちらかというとこっちに興味があるのかもしれません)
【取材】
佐賀県基礎科学講演会
「国際リニアコライダーがひらく地平~宇宙の創成、宇宙の未来~」
主催 佐賀県
協力 高エネルギー加速器研究機構「KEKキャラバン」
講師 高エネルギー加速器研究機構 野崎光昭 先生
日時 2013年1月18日(金)19:00~20:30
場所 アバンセホール(佐賀県佐賀市)
国際リニアコライダー計画について、詳しく記載があります。是非ご覧ください。
TAGS: KEK・つくば・レゴブロック・佐賀・北上・国際リニアコライダー・国際科学技術博覧会・技術・物理学・理科・福岡・素粒子・背振・量子力学・高エネルギー加速器研究機構 | 2013年1月19日