町工場にあるクリエイティブ ~岡野工業株式会社~

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日本のモノづくりを支えた町工場。産業の変革ともに企業はコストを抑えるため大型工場を海外に建設し、そんな日本を支えた元気の良い街も景色を変えてきました。2012年頃より注目され始めたモノづくり。しかし昔から変わらずモノづくりに努め、今ではモノづくりをする中小企業の星の一つとなり未だ輝き続ける、もっとも元気の良い中小企業「岡野工業株式会社」をご紹介します。

岡野工業株式会社の代表社員「岡野雅行」さんは10代初めから実父が営んでいた岡野金型製作所の職人として修業を開始。1972年に岡野工業に社名を変え、金型の生産からプレス加工を中心とした企業へシフト。高い技術で多くの企業との取引を始めます。数々の技術開発と挑戦する熱い気持ちで不可能を可能にしてきました。誰もしないことに挑戦し続け、まもなく80歳を迎え、いまだ現役。日々新技術に挑んでいます。

プレス加工はなかなかイメージがつきません。代表的事例として、携帯電話やウォークマン、電気自動車のリチウム電池のカバーです。加工が少しでも雑だと電池内部より液漏れしてしまいには爆発する危険性もあります。この技術はすぐに生まれたものではなく、そのルーツはステンレスのライターケースを加工した過去の経験より生まれたのものでした。そして、プレス加工を全自動化をすることで24時間生産体制を作り生産能力の効率化を図ります。この発想はこの頃の町工場にはなかったようです。過去の経験は本当に大切と感じます。

このライターケースよりも前に作られた「鈴(すず)」。一般的には中心に溶接が入り2枚の金型で作られているものがほとんど。しかし溶接を一切使わず一枚の金板を用い金型を作りプレス加工で製作。開発されたのは約40年前だが、いまだにこの技術は他ではできません。そしてこの技術から生まれた製品がテルモとの共同開発した「痛くない注射針」です。この技術で岡野工業株式会社という企業名が一般の方にも広がり一躍有名となりました。

この注射針の用途とは糖尿病患者が一日数回インスリン製剤を注射する自己注射療法として使われています。その技術の素晴らしさは患者の皆さんへ伝わり、いまでは全世界で使われ、2012年には1億本の生産に達成しました。次に挑戦したのは針先を0.2mmから0.18mmにするというもの。そして2012年8月にさらに痛くない注射針「ナノパスニードルⅡ」が発売され、さらに技術を高めることに成功しました。

技術だけが素晴らしいだけでなく、代表社員である岡野雅行さんの心意気が開発や生産に伝わっているものと思います。まず、開発技術は10年後20年後の未来を見据えた技術を目指していること。そして、失敗を恐れずに進み挑戦すること。時には生産を他社の町工場にお願いをすることで町工場全体を盛り上げにも尽力されていらっしゃいます。人間味あふれる義理と人情がここにしっかり生きています。著書に多くの格言の記載がありますので、ぜひお手に取ってみて頂ければと思います。

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一本道を入ると、たくさんの工場や商店で賑わっていた町並みは今はシャッターも多く静かな時間が流れていました。町工場に変わらず輝き続ける星の一つ「岡野工業株式会社」や「代表社員の岡野雅行さん」を知っていくことで、ここから10年後20年後の生き方が見えてきます。技術としての理科を知ることが実は人生につながることと感じることが出来ました。ノスタルジックな街並みとともにワクワクな気持ちに包まれる、そんな世界が日本にあります。


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【あとがき】
2012年秋に開催された鹿児島での講演会の時にご一緒させて頂いた後、生き方を学ぶことが出来ました。夢中になって未だに夢中である岡野さんの魅力を20代や30代の若手の方にも伝えて行くことも僕たちの一つの生き方なのかもしれません。理科を通じて知ることが出来た世界に感謝します。2013年1月に事務所に伺った日の天気は晴天。写真は墨田区向島より見える東京スカイツリーと町工場。今と昔が行きかう街並みが大好きになりました。
※なおプレス加工見学やお打合せ等は行っていらっしゃいませんので、お問い合わせされませんようお願いします。



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